膵癌の癌化過程解析と、早期癌および転移巣早期診断のバイオマーカーの解析

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12671229
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 村上 義昭 広島大学, 医学部・附属病院, 講師 (10263683)
• 研究分担者: 今村 祐司 広島大学, 医学部・附属病院, 講師 (70274082) ; 桧山 英三 広島大学, 医学部・附属病院, 助教授 (00218744)
• キーワード: 通常型膵癌 / 膵管内乳頭腫瘍 / 膵島細胞腫瘍 / 慢性膵炎 / DPC4遺伝子 / テロメラーゼ活性 / K-ras遺伝子点突然変異 / p53

研究概要

前年度の膵腫瘍切除検体における各種遺伝子異常の検討では、さまざまな膵腫瘍における遺伝子異常が存在することが判明した。まず、膵腫瘍におけるDPC4遺伝のヘテロ接合性の検討では、通常型膵癌および膵島細胞腫について検討を行ったが、この遺伝子の遺伝子異常は存在するものの過去に文献的に報告された頻度ほど多くないことが判明した。免疫染色によるp53の遺伝子発現異常の検索では、この遺伝子の発現異常は通常型膵癌、膵管内乳頭腺癌の悪性病変にのみ認められるものの、その発現頻度は約50%前後と低く、膵癌発生過程の癌化成立後後期に発現の異常が発生するものと考えられ、膵癌早期発見のbiomarkerとしては十分でないことが判明した。また、K-ras点突然変異の膵腫瘍組織での検討では、膵癌組織でのその異常の発現の頻度は80%前後と高率ではあるが、膵管内乳頭腺腫および慢性膵炎例でもその発現の異常が検出され、良性病変にも異常を認めることより膵癌早期発見時の偽陽性例が存在することが示唆された。これに反して、膵腫瘍組織のテロメラーゼ活性の検討では、通常型膵癌では95%、膵管内乳頭腺癌では100%のテロメラーゼ活性の陽性率を示し、また、慢性膵炎、膵管内乳頭腺腫ではテロメラーゼ活性の陽性例は存在せず、膵癌細胞の検出においてはspecificity、Sensitivityともに今回検討を行った遺伝子学的検索において膵癌早期発見においては最も有用なbiomarkerであることが判明した。以上の検討をもとにして平成13年度は消化器外科領域で最も予後不良な膵癌の早期発見に対する遺伝子学的手法の導人を目指し、テロメラーゼ活性をターゲットにして以下の検討を行った。
術前逆行性膵管造影時に採取した純粋膵液中のテロメラーゼ活性の検討
術前採取した純粋膵液のテロメラーゼ活性は、膵癌13/15、膵管内乳頭腺癌11/13、膵管内乳頭腺腫0/15、慢性膵炎0/12に陽性例が存在し、癌化例に高率な陽性率を示し、また良性例には陽性例は認められなかった。
以上の検討により、膵癌早期発見のbiomarkerとして術前純粋膵液によるテロメラーゼ活性の検出は有用な膵癌早期発見の手段となりうることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Murakami Y., et al.: "Successful diagnosis and resection of icteric type hepatocellular carcinoma."Hepatogastroenterology. (in press). (2002)
• [文献書誌] 村上義昭, 他: "膵胃吻合再建を伴う膵横断切除術"手術. (in press). (2002)
• [文献書誌] Murakami Y., et al.: "Long-term survival of peripheral intrahepatic cholangiocarcinoma with metastasis to the para-aortic lymph nodes."Surgery. 126・1. 105-106 (2000)
• [文献書誌] 横山雄二郎, 他: "超音波内視鏡による膵浸潤診断とVater乳頭部癌手術術式の選択"手術. 54・5. 677-680 (2000)
• [文献書誌] Hiyama E, et al.: "Clinical utility of teromerase in cancer"Oncogene. 21・1. 634-640 (2000)
• [文献書誌] Hiyama E, et al.: "lmmunohistochemical detection of teromerase (hTERT) in human cancer tissues and a subset of cells in normal tissues."Neoplasia. 3・1. 17-26 (2001)