研究概要 |
【目的】治療前から生検組織を得られる消化管癌において,組織中の遺伝子診断による癌の悪性度評価の意義は大きい.われわれは1998年に同定された細胞周期調節因子であるaurora2に注目し,そのoncogeneとしての作用を明らかにしてきた.今回消化管癌におけるaurora2の発現と臨床病理学的因子や長期予後との関連について調べ,癌悪性度診断におけるaurora2発現の意義を検討した. 【対象と方法】1994年4月から96年10月までの間に手術を施行した食道癌53例,胃癌72例,大腸癌76例を対象とした.aurora2mRNAの発現は,腫瘍組織と正常粘膜の新鮮標本から抽出したRNAを用いてRT-PCR法で調べ,GAPDHで補正したaurora発現量のT/N比が1.0を超えるものを発現陽性とした.また治癒切除後3年以上経過した症例について予後調査を行った. 【結果】aurora2mRNA発現は食道癌の51%(27/53),胃癌の53%(38/72),大腸癌の47%(36/76)と各消化管癌の約半数に認め,その多くはT/N比が10を超え腫瘍特異的に発現していた.た.臨床病理学的にaurora2発現陽性群と陰性群を比較すると,胃癌ではリンパ節転移率が陽性群71%(27/38),陰性群38%(13/34)で,陽性群は陰性群に比べ有意にリンパ節転移を多く認めた(p<0.01).しかし病期・組織型・腫瘍径・深達度・リンパ管侵襲・脈管侵襲は両群間に差はなかった.大腸癌でもリンパ節転移率は陽性群64%(23/36),陰性群18%(7/40)で,陽性群は有意にリンパ節転移が多く(p<0.01),リンパ管侵襲も陽性群69%(25/36),陰性群30%(12/40)で,陽性群に有意に多く認めた(p<0.01).しかし食道癌においてはリンパ節転移は陽性群86%(18/21),陰性群76%(4/13)で両群間に差はなく,所属リンパ節群別に比較しても差はなかった.また他の臨床病理学的因子も両者に差はなかった.予後についてみると大腸癌の3年無再発生存率はaurora2発現陽性群67%,陰性群89%であり,陽性群は有意に予後不良であった(p<0.05).胃癌でも大腸癌と同様に陽性群の予後不良の傾向がみられたが,食道癌では両群間に差はなかった. 【結語】消化管癌においてaurora2の発現は癌組織の約半数に認めた.また胃癌・大腸癌ではaurora2の発現はリンパ節転移と関連し,陽性例の予後は不良であった.これよりaurora2の発現により胃癌・大腸癌の悪性度評価,特にリンパ節転移の新しい指標になり得ると考えられた.
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