BOP誘導ハムスター実験膵臓癌から、転移性の異なる二つの細胞株を樹立し、高転移株培養上清中に低転移株の細胞コロニーを解離させる因子(癌細胞解離因子;DF)が存在することを見出し、DFの本態の解明と膵癌の浸潤・転移機構の関連を明らかにすることを目的に研究を進めた。 蛋白レベルの解析では、部分精製したDFを免疫原として作製したDFの中和抗体を用いたWestern blottingにより分子量約55K前後に2本のmajor bandが検出され、微量アミノ酸解析の結果、蛋白はムチン様構造を有するIgG Fc binding proteinあるいは新しいタイプのmetallop roteaseと高いhomologyを示す結果が得られた。遺伝子レベルでは、RDA(representational di fference analysis)法を用いて浸潤・転移性の異なる両細胞株におけるmRNA発現の違いを検討し、これまでに5個の未知の遺伝子ならびに細胞の刺激伝達経路に関わる因子であるMKK2、PI4Kを単離検出した。 生物学的特性の解析では、DFは癌細胞内でMKK2、PI4Kのリン酸化を誘導し、c-fosの発現を増強させ、癌細胞間のtight-junction蛋白の発現を低下させて癌細胞を解離させた。さらに、inte grin-β1の発現を増強し、細胞外マトリクスとの接着を増強して細胞遊走能を亢進させることが明らかとなった。これらの結果は、DFが癌細胞の細胞解離、遊走、浸潤能の刺激伝達経路に深くかかわっていることを示唆しており、膵臓癌の浸潤転移機構の初期段階と密接に関連すると考えられる。DFの本態とその刺激伝達経路の解明は、その制御による膵臓癌の浸潤転移の予防法の開発に寄与できるものであると考えている。
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