研究概要 |
背景と目的:膵嚢胞性病変が多数発見されるようになったが、その鑑別診断は必ずしも容易ではない。とくに膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)は、組織学的本態が曖昧で、同一の病変ですら病理学者によって診断が異なることがある。そこで、IPMTの病理学的本態(腫瘍性or非腫瘍性)に迫るべく遺伝子学的検索を試みることとした。 対象と方法:IPMTおよび粘液性嚢胞腫瘍(MCT)切除例のうち、クロナリティ解析が可能であった女性は11例(IPMT7,MCT4)であった。ホルマリン固定標本から各異型度(grade0-3)の上皮を選択的に採取し、DNAを抽出・精製した。クロナリティ解析はX染色体上PGK遺伝子のメチル化による不活化を利用して行った。K-ras変異はnested PCR法で検討した。 成績:monoclonalityもK-ras変異もgradeが増すにつれて出現頻度が高くなった。則ち、gradeごとにmonoの出現頻度をみると、monoはgradeO:27%、grade1:43%、grade2:100%、grade3:100%であった。K-ras変異はgradeO:0%、grade1:29%、grade2:50%、grade3:75%であった。monoとK-ras変異がどのgradeから出現するかについて検討すると、相互関係に一定の傾向は認められなかった。gradeごとにみると、monoの方がK-ras変異に比べて高い傾向が認められた。 総括: 1.IPMTでは異型度が増すにつれmonoclonality、K-ras変異の頻度は増加した。 2.異型の乏しいMCTは、polyclonalであり、非腫瘍性である可能性が考えられた。 3.monoclonalityはK-ras変異よりも早期の段階で腫瘍化に関与することが示唆された。
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