研究概要 |
【緒言】ヒト大腸のAberrant Crypt Foci (ACF)は一般に前癌病変と考えられており、この主たる根拠として、"K-ras変異率が高いこと"と"大腸癌の外科的切除標本においてACFが高頻度に認められることがあげられる。下部直腸のACFについて拡大内視鏡を用いた検討を行った。 【対象・方法】臨床的に大腸内視鏡検査を必要としACFの検索の同意の得られた166名(大腸癌例26・大腸腺腫65・正常例75、平均年令62.1±11.1、男90・女76)を対象として、直腸の第2ヒューストン襞より肛門側直腸のACFの頻度を拡大内視鏡を用いて観察し、カウントした。内視鏡観察下にACFと診断し生検を行った224病変のうち組織学的にACFと判断された118病変については、K-rasの点突然変異に関して、direct sequence法により検索し、過形成性ポリープ52病変と比較した。 【結果】ACFのカウント数の中央値は、大腸癌例3個、腺腫例3個、正常例3個であり有意差はなかった。性差はなかったが、年令とACFの頻度の間に有意な相関関係(P<0.01)が認められ、高齢者でACFの頻度が明らかに高かった。K-ras変異率はACF36.8%、過形成性ポリープ30.8%であった。ACFを組織所見により分類すると、K-ras変異率は,核異型のない腺管の拡張を特徴とするACF,24.1%、"鋸歯状変化を伴うACF"69.2%、"核異型を伴うACF"62.5%となった。 【結語】ACFの頻度は、大腸癌例で高いとはいえず、加齢とともに高くなった。非腫瘍性病変と考えられる過形成性ポリープでも、ACFとほぼ同程度のK-ras変異率を示した。ACFの頻度やK-ras変異率を根拠としてACFを前癌病変とみなすことは困難と考えられ、ACFの出現は老化現象の一面をみている可能性が考えられた。
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