わが国では胃癌が原因で年間5万人が死亡している.胃癌の治療成績は早期発見率の増加、集学的治療の進歩により大きく向上したが、進行癌、とくに腹膜播種陽性例における転帰はきわめて不良で、とくに腹膜播種陽性例の1年生存率は20%以下である. 一方、癌が浸潤・転移する際の主病巣周囲の細胞外マトリックスや基底膜の破壊は重要なステップであることが知られている.私共はヒト消化器癌組織中のマトリックス分解酵素(matrix metalloproteinase : MMP)が癌浸潤・転移の過程で重要な役割を演じており、さらに生物学的悪性度と密接な関連があることをこれまで明らかにしてきた.これらの成績を踏まえ、MMPによる細胞外マトリックス破壊を阻止することが癌細胞の進展の抑制につながるとの仮定から本研究を計画、実施した.各種MMP阻害剤の転移抑制効果を動物腹膜転移モデルを用いて検討した. 1.SCIDマウス腹膜播種転移モデルの確立 2.MMP阻害剤による播種結節形成抑制効果の検討.SCIDマウスにTMK-1を腹腔内投与後、1週目からMMP阻害剤として知られるノビレチンを連続14日間背部皮下植え込み型浸透圧ポンプより投与した.3週後にマウスを犠牲死させ、腹膜播種結節の数と総重量を計測して、その効果を判定した.その結果、コントロールに比べ治療群において有意に腹膜播種形成の抑制を認められた. 3.腹膜播種結節形成の抑制機序について検討した.治療群の腫瘍結節においてMMP-9の活性が抑制されていることならびに腫瘍組織の血管新生が抑制されていることを明らかにした. 以上より、MMP阻害剤を用いた新しい癌転移治療の可能性が示された.
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