本研究では、超音波化学療法(Sonodynamic Therapy :以下SDT)による癌病巣に対する治療効果について検討している。本法を臨床的に使用するには、照射方法、照射条件、腫瘍親和性薬剤の選択など、そのプロトコルについて検討する必要があり、各年度ごとに各項目について検討している。前回は的確な照射を目指して、転移巣を的確に捉える目的で、Sonosite-180を使用して肝転移巣を直視下にて照射を行った。本研究では、腫瘍親和性薬剤としてフォトフィリンを使用しているが、光過敏症の発生が臨床応用の大きな障害となっている。 この薬剤の副作用に対する対策として、(1)従来の薬剤に比較して光過敏症の少ない薬剤を使用する、(2)従来の薬剤を局所的な投与経路により投与する、が挙げられる。(1)に関しては次年度の研究項目として検討を予定しているが、本年度は(2)について検討した。フォトフィリンの投与経路は、一般的に、経静脈的とされる。このため、患者は、光過敏症に対する予防として、投与後約3週間に渡って暗所で過ごすことを強いられ精神的に多くの問題を生じることが解った。そこで転移巣に直接に腫瘍親和性薬剤を局注し、その後に超音波照射し、組織所見により病巣の変化を検討した。超音波照射条件は経静脈投与と同じにした。対象症例は直腸癌術後の旧肛門の縫合線上に直径約4センチの球形の再発症例である。硬膜外麻酔下に、砕石位として経静脈投与の1/4の量のフォトフィリンを腫瘍全体に行き渡るように局注したのち、約一時間の超音波照射を行った。その後、一時間経過した後に腫瘤を切除し、染色後に顕検した。それによると、摘出された病理組織では著明な組織所見は観察されなかった。 経静脈的に投与された薬剤は毛細血管を通して組織の細部に行き渡るが、局注の場合にはこうした薬剤分布をしないことが推測される。また局注後から照射まで、および照射から切除までの時間経過が短いことが効果判定の支障となったことが考えられた。
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