研究概要 |
目的:下部直腸癌はQOLの面から肛門機能温存が必要とされる腫瘍である。一般に術前放射線照射後切除例では局所再発率が低下するといわれているがその機序は明らかになっていない。これを明らかにする事でこの治療が広く普及することが期待される。そこで現在までに施行された症例について、その効果を病理組織学的に詳細に検討し、更に効果の予知指標の設定を目標としている。 方法:1)術前放射線照射後外科的に切除された34例の手術材料を対象に組織学的効果を検討した2)34例中16例を無作為に選び手術時に摘出されたリンパ節中での微小転移の頻度を調べた。術前療法の行われない16例のマッチトコントロールを対照とした3)照射効果の予知指標を調べるため34例中の19例につき照射前生検組織と照射後切除標本組織を対照に、細胞周期関連蛋白とアポトーシス関連蛋白の発現と効果の関連を免疫組織法で検討した 結果:1)主病変では14例(41.2%)に胃癌取り扱い規約の基準でEf2以上の照射効果を認めた。特に90%以上腫瘍細胞の消失した5例は全例5年間無再発で生存を認めた。組織型をみるとEf2未満(n=20)とEf2以上(n=14)の例の間に差はなかった。リンパ節転移に対しては放射線効果では4例に腫瘍細胞の消失を認めた。2)通常の鏡検でリンパ節転移陽性例を調べると、照射群(8/16)と非照射群(8/16)の間で差はなかった。しかし低分子サイトケラチンの免疫染色で発見される微小転移は、照射群で12.5%(2/16)、非照射群で37.5%(6/16)と、照射群で低い傾向にあった。微小転移は、照射群の2例では全て他のリンパ節に明らかな転移を認めたのに対し、非照射群では微小転移のみ発見された例が50%(3/6)あり、これらは通常の鏡検では他に転移を発見できなかった3)p27,p53,Ki-67,Bcl2,C-erbB2,Caspase3,M30,Pynpase,の免疫染色では放射線治療効果との間には、現在までに特別な傾向は認められていない。 考察と今後の研究計画:局所再発率の低下の原因が微小転移の低下の関与する可能性がみいだされた。予知指標の再検討を含め今後さらに検討を進める予定である。
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