研究概要 |
目的:下部直腸癌はQOLの面から肛門機能温存が必要とされる腫瘍である.一般に術前放射線照射後切除例では局所再発率の低下や生命予後の改善が臨床的に明らかになっているが,その機序は明らかになっていない.詳細な病理学的検索によってこれを明らかにすることを目的とした. 方法:1)術前放射腺照射施行例24例の照射前生検材料または手術切除材料にKi-67,Bcl-2,p53,C-erB2,p27,Caspase3の免疫組織染色を行い,組織学的照射効果との関係を検索した.2)照射前生検材料と手術切除材料の両方の検索が可能であった17例では,照射前後の変化と組織学的照射効果との関係を検討した. 結果:1)照射前生検材料,手術切除材料のいずれにおいてもKi-67,Bcl-2,P53,C-erB2,p27,Caspase3の染色性と組織学的照射効果との間に有意な関連は認めなかった.2)照射前生検材料と手術切除材料との比較では,Ki-67陽性細胞比率の著明な低下(64±28%→18±27%,p=0.004)とp53陽性率の低下(10/19→5/22,p=0.035)が認められた.Bcl-2,C-erB2,p27,Caspase3には有意な変化はなかった.3)Ki-67陽性率,p53染色性の照射前後の変化と組織学的照射効果との間には明らかな関連はなかった. 考察と今後の研究計画:術前放射線照射によって認められるKi-67陽性率の低下,およびp53染色性の変化は,従来からの組織学的な照射効果の判定基準とともに,照射効果の判定基準となり得る可能性があり,局所再発や生命予後との関係も含めて,さらに検討を進める予定である.
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