近年心肥大の細胞内シグナル伝達機構については積極的に研究されているが、具体的な肥大心の不全心への移行機序については不明な点が多い。以前より肥大心筋のエネルギー代謝は脂肪酸優位からグルコース依存へとシフトすること、不全心においてはこのグルコース代謝の破綻が認められることが判明している。また、活性酸素種は不全心移行の原因の一つである可能性があり、その活性酸素種の一つである過酸化水素はグルコース代謝を改善すること、種々の細胞にExtracellular signal-regulated kinases(ERKs)を介しアポトーシスを誘導することも判明してきている。肥大心形成の過程においてこのERKsを介する細胞内シグナル伝達自体の関与も明らかとなっている。以上のことから、肥大形成に伴うグルコース代謝の変化から過酸化水素の増加が起こりこれが酸化ストレスとなり、ERKsを介しアポトーシスの誘導、不全心への発展が起こっている可能性が示唆される。 以上の可能性を検証するため、ラット圧負荷肥大心筋モデルと培養myoblastsのisoproterenol刺激肥大細胞を用い、心筋過酸化水素濃度、ERKs発現、グルコース代謝、アポトーシスを中心に検討した。 結果は、圧負荷肥大心と培養myoblastsモデル両方で肥大の形成に従い過酸化水素濃度の上昇を認め、ERKsの発現抑制をともなっていた。培養myoblastsでは、これに加え、肥大形成に伴いグルコース代謝の障害、アポトーシスの増加も認めた。 以上から、肥大形成に伴うグルコース代謝の障害に伴い過酸化水素濃度の上昇を認めたが、これは酸化ストレスとしてアポトーシスを誘導し肥大心の不全心移行のトリガーとなっている可能性が示唆され、これにはERKs蛋白発現の減少が関与していることも推察された。
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