冠動脈放射線療法を冠動脈バイパス術後の吻合部狭窄の予防に応用できないか考察する目的で、イヌの大体動脈を用いた遠位側吻合部モデルを作成して低容量放射線放射の効果を検討した。ビーグル犬を使用し、8-0のモノフィラメント糸の連続縫合で大腿動脈-大腿動脈、大腿動脈-大腿静脈のコンポジットグラフトを作成し、この吻合部を動脈グラフト、静脈グラフトの吻合部と仮定した。吻合部にX線の外照射を施行後に大腿動脈に移植し、2週間後に犠牲死させて、急性期の吻合部狭窄の程度と放射線の効果を組織学的に検討した。放射線の線量は10Gy、20Gy、30Gyとした。組織学的に計測を行い、また、免疫組織学的な手法を用いて吻合部狭窄の機序を検討した。動脈の内膜肥厚の程度および、瘢痕狭窄の程度は10Gy以上でコントロール群と比較して有意差があった。免疫染色ではコントロール群で外膜側から内腔側にかけて抗alpha-actin抗体、抗PCNA抗体陽性細胞がみられ、抗PCNA抗体陽性細胞の細胞密度は外膜側で高値であった。抗alpha-actin抗体、抗PCNA抗体陽性細胞と抗alpha-actin抗体陽性細胞は線量に比して減少していた。二重免疫染色では抗PCNA抗体陽性細胞と抗alpha-actin抗体陽性細胞が同一細胞であるという所見が得られた。また、コントロール群においてのみ抗MCP-a抗体、抗AM-3抗体陽性細胞の集積が認められた。放射線照射によりvon Willebrad抗体に陽性の内皮細胞の減少が認められた。低容量放射線は再内皮化の遅延が一因と考えられる壁在血栓形成の問題はあるものの吻合部狭窄を抑制する治療法として有用であると結論された。ビーグル犬を用いた冠動脈バイパス手術に発展させて検討したのち、実際の冠動脈バイパス手術への臨床応用を考慮している。
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