研究概要 |
本年度は、摘出脊髄を用いた灌流実験を中心に行った.これまでに得られた知見では,ischemic preconditioning(IPC)により虚血操作直後の脊髄対麻痺の発現率は有意に減少するものの(early protection),48時間後の脊髄対麻痺に関してはその予防に対し有意差をもってIPCの有効性を証明することはできなかった(delay protection).今回の実験では,early protectionを脊髄そのもので確認することと、薬剤(K_<ATP> channel opener ; nicorandil)投与による脊髄の虚血に対する保護効果を検証することを中心に研究を行った。 従来より使用している家兎実験モデルで開腹にて腎動脈以下を5分間虚血,5分間再灌流のIPC操作を3クール行ったもの,開腹操作のみを行ったものそれぞれを犠牲死させた後,摘出時間も含め30分間無酸素状態とした後,灌流装置に移し95%酸素加Ringer液で60分間灌流し再灌流とした.この脊髄標本に電気刺激を加え2カ所で電位を測定しそのamplitude, latency, conduction timeを測定した.その結果,amplitude, conduction timeともにIPC操作を行った群は、有意差は無かったもののコントロール群(開腹操作のみの単純虚血)に比較し正常に近い数値となった.さらに注目すべきは,nicorandilを術前投与しかつ単純虚血を行った群は開腹操作のみの単純虚血に比較しamplitude, conduction timeともに有意にamplitude増高,conduction time短縮が得られた(灌流液にnicorandilを添加した場合には変化なし).以上のことより,IPC操作はearly protectionに関しては、脊髄保護に寄与する可能性があること、nicorandil投与はIPC操作に近い効果を有するものであることが示唆されたと考える.今回の実験では、電気生理学的実験場,noise等があり今後精度を上げることが必要であり、薬物の濃度,麻酔薬の関与等多くの解決すべき問題がある.さらに実験を重ね脊髄保護の本質に迫りたい.
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