研究概要 |
本研究では(1)新たな遺伝子導入法であるelectroporation(DNAを筋注した部位に電気パルスを与える方法)で効率良く目的とするサイトカイン遺伝子を導入できるか (2)サイトカインバランスを人為的に操作することで慢性拒絶反応の気管支閉塞病変を予防できるか否かの2点を検討した。 結果 (1)マウスIL-10、viral IL-10のcDNAを発現プラスミドベクターに組み込み注射するDNAを作成した。ラットの下腿部に100μgのベクターを注射後、100V,50msec,8回の電極設定で電気パルスを与えた。その後経時的にラットの血清を採取しELISA法で目的とするサイトカインの発現程度と発現期間を検討した。導入後72時間をピークとし2週間以上の長期にわたりラット血清中に1000pg/ml以上の高濃度のサイトカインを分泌させることが可能となった。一方サイトカイン遺伝子を組み込んでいないプラスミドだけ導入した動物では正常ラットの血清と同様IL-10は同定できなかった。 (2)次に異所性気管移植で肺移植後の慢性拒絶反応に特異的な細気管支の閉塞病変を作成した。組織適合抗原の異なるレシピエントの皮下に気管を移植することで4週間後にほぼ100%の移植気管に閉塞性病変を確認した。この閉塞病変は粘膜層の消失と繊維化を特徴としている。 さらに慢性拒絶のモデル動物にサイトカイン遺伝子を導入し移植された気管の組織像・閉塞程度を指標としその抑制効果を検討した。 サイトカイン遺伝子を組み込んでいないプラスミドだけ導入した群では閉塞病変の程度はは無治療群と同様であったが、移植後3日目にIL-10を導入したラットでは10匹中7匹で閉塞病変の改善を認めた。遺伝子導入の時期に関しては移植前導入よりも移植後3日目の方が有効な印象があるが今後数を増やして確認する必要がある。また治療群の移植片で効果の認められなかった3例と改善群との相違点を検討する必要がある。さらにIL-10以外のサイトカインの導入とその効果についても確認を予定している。
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