肺移植で長期生存を規定する最大の障害因子として、慢性拒絶反応による細気管支の閉塞とそれによる移植肺の機能低下がある。本研究ではラットで異所性気管移植を行い細気管支の閉塞モデルを作製した。さらに閉塞モデルを対象として、新たな遺伝子導入法であるelectroporationでサイトカイン遺伝子を導入できるか否か、また、サイトカインバランスを人為的に操作することで閉塞病変を予防できるか否かを検討した。 IL-10のcDNAを発現プラスミドベクターに組み込み、これを筋注しelectroporaticmを行い、経時的にラットの血清を採取しIL-10の発現程度と発現期間を検討した。導入後72時間をピークとし2週間以上にわたり1000pg/ml以上の高濃度のIL-10を分泌させることが可能となった。IL-10の慢性拒絶に対する抑制効果を判定する為、移植した気管の組織像、閉塞程度を指標に治療効果を検討した。IL-10を導入したラットでは無治療郡に比べて閉塞病変の改善が認められた。しかし、個体間での閉塞病変の改善度にばらつきがある為、気管移植と遺伝子導入のタイミング、IL-10の発現程度を変化させて検討を行った。移植日から移植7日後までタイミングを変えた単回投与に加え、移植後4週間の長期に高濃度の IL-10を維持すべく移植同日、7日後、14日後、21日後の計4回の投与を行った。その結果、単回投与、4回投与いずれも血清中のサイトカインは高濃度で発現していたが、閉塞病変に対する改善効果は無治療郡に比べ統計学的有意差を認めなかった。 サイトカインバランスを人為的に操作することで閉塞病変を予防できる可能性は示唆されたが、IL-10の長期高濃度発現にも関わらず、閉塞病変の改善は不確実で、他のサイトカインの併用も考慮する必要があると考えられた。
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