研究概要 |
対象 大動脈解離の急性期に手術を行った際に切除した、上行大動脈の前壁30例を対象とした(男性14例、女性16例、平均年齢64±10(28-80)歳)。また対象には腹部大動脈瘤12例(男性11例、女性1例、平均年齢70±5(62-79)歳)、コントロール16例(男性9例、女性7例、平均年齢66±8(59-81)歳)を用いた。コントロールは冠状動脈バイパス術後の中枢吻合のために切除した上行大動脈壁を使用した。 方法 病理組織学的検討 Hematoxylin-eosin染色、Elastica van Gieson染色を行った。 免疫染色 抗ヒトモノクローナルMMP-2、MMP-9、TIMP-2抗体を用いて行った。 Enzyme-linked immunsorbent assay(ELISA) ELISA kit(Amersham Pharmacia Biotech, UK)を用い、MMP-2、MMP-9、TIMP-2の定量を行った。 結果 光学顕微鏡的観察 大動脈解離では中膜のおよそ外側1/3で解離が認められ、一部弾性線維の断裂と密度が粗になっているのが観察された。腹部大動脈瘤では内膜の著明な肥厚と伴に、中膜の菲薄化と弾性線維の破壊が認められた 免疫染色学的観察 大動脈解離の中膜平滑筋細胞と血栓周囲のマクロファージ細胞がMMP-9染色陽性であった。腹部大動脈瘤の中膜平滑筋細胞もMMP-9染色陽性であった。正常コントロールでは染色性は見られなかった。その他のMMP-2、TIMP-2はどの検体でも染色性は見られなかった。 ELISA法にょるMMP-2、9、TIMP-2の定量(CON:正常コントロール、AAD:大動脈解離、AAA:腹部大動脈瘤)MMP-2は大動脈解離と腹部大動脈瘤は正常コントロールに比較して有意に低値を示した(CON,58±30;AAA,19±17(P<0.001 vs CON);AAD,36±19ng/mg of soluble proteins(P<0.01 vs CON and p<0.05 vs AAA)。MMP-9は特に有意差は認めなかった。TIMP-2は大動脈解離と腹部大動脈瘤は正常コントロールに比較して有意に低値を示したAAA(CON,216±130;AAA,20±21(P<0.001 vs CON);AAD,21±25ng/mg of soluble proteins(P<0.001 vs CON)。また、TIMP-2/MMP-2 ratioとTIMP-2/MMP-9 ratioは大動脈解離と腹部大動脈瘤は正常コントロールに比較して有意に低値を示した。TIMP-2/MMP-2 ratio were 3.7±1.7 in CON,1.9±1.3 in AAA(P<0.001 vs CON)and 0.9±0.8 in AAD(p<0.001 vs CON and p<0.05 vs AAA)。TIMP-2/MMP-9 ratio were 200±170 in CON,19±23 in AAA(P<0.001 vs CON)and 37±80 in AAD(P<0.001 vs CON)。大動脈解離の急性期の瘤壁のMMP-2とTIMP-2はコントロールに比べ低下し、TIMP-2/MMP-2 ratioとTIMP-2/MMP-9 ratioも低値を示した。このことは、MMPの相対的な活性化を示し、慢性的な細胞外マトリックスの破壊、分解を増長し、大動脈解離の中膜の脆弱性を招き、さらには大動脈解離発症の重要な役割を果たしていると考えられた。
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