研究概要 |
近年、脊髄を含む中枢神経系の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸のneurotoxicityと,ALSの病態発生との関係が報告されている。Amyotrophic lateral sclerosis (ALS)は,進行性の神経変性疾患であり,脊髄のmotor neuronの変性をきたす致死的な疾患であるが,有効な治療法は確立されていない。glutamate neurotoxicityを減弱する薬物であるriluzoleは,臨床治験ではじめて進行を遅らせる効果が報告された唯一の薬剤であるが、in vivoでは特異性の高い実験動物モデルが乏しく、その有効性や作用機序を解明することが困難であった。グルタミン酸虚血下分節注入モデルで,riluzoleおよびAMPA/kainate受容体の選択的阻害薬、2,3-dihydroxy-6-nitro-7-sulfamoyl-benzo(f)-quinoxaline(NBQX)との併用効果をin vivoで評価した。実験動物は3.5-4.0kgのNew Zealand white rabbitを使用した。A群(n=7)では,術前10日間,riluzole 100mg/kg/dayを経口投与した.B群(n=7)はcontrolとして通常の水,食餌を与えた.New Zealand white rabbitを開腹し、腹部大動脈を腎静脈の直下およびbifurcation直上で剥離した。カテーテルを右大腿動脈から腹部大動脈にむけ挿入、その先端はbifurcationから5mm上の位置に固定した。50mMのグルタミン酸溶液を2ml/minの注入速度でカテーテルから注入した。同時に腹部大動脈を左腎静脈直下で遮断、カテーテルをbifurcationで外側から締め、血流を遮断した。5分後、血流を再開、同時に注入も停止した。C群(n=8)とD群(n=8)は,術前10日間,riluzole 100mg/kg/dayを水に混ぜ投与した.E群(n=8)はcontrol群として,通常の水,食餌を術前与えた.C群は、溶解液のみ分節注射したのち、50mMのグルタミン酸溶液を2ml/minの速度で5分間注入しつつ血流を遮断した。D群およびE群は4mg/kgのNBQXを分節注射したのち、同様に実験を進めた.神経学的所見をTarlovのmodified scoreに従い、手術後、12、24、48時間後、評価した。A群のTarlov scoreは、3.7±1.6,B群は0.8±0.6とA群でB群より有意に良好な回復を示した(p<0.05)。C群は3.2±0.6,D群は4.1±0.5、E群は2.3±0.7とD群でC群,E群より有意に良好な回復を示した(p<0.05)。病理組織学的検索では、C群,E群では、灰白質とくにventral hornの神経細胞の脱落が著明であったが、D群では軽度のeosinophilic changeのみで、灰白質は保護されていた。Riluzoleは、グルタミン酸虚血下分節注入モデルでAMPA/kainate受容体阻害薬であるNBQXとの併用効果をin vivoで示した。今後さらに検討することで新しい治療プロトコールの開発が期待できる.
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