研究概要 |
組織型の異なる2種類のヒト肺癌細胞株を用い、温熱処理後からアポトーシスが実行される間の細胞内カルシウムイオン濃度変化を検討することを足がかりとし、非小細胞肺癌における温熱によるアポトーシス・シグナル伝達経路を検討することを目的とした。 1.用いた2種類のヒト肺癌細胞株(LK-2ヒト肺扁平上皮癌、LU65Aヒト肺大細胞癌)で、44℃・60分間の温熱によりアポトーシスの誘導を認めた。両細胞とも、温熱48時間後にアポトーシス誘導率は最大値を示した。 2.ヒト肺癌細胞での温熱誘導アポトーシスにおいて、細胞内カルシウムイオン濃度が温熱後9時間前後に250-300nMに上昇・持続することを生きた細胞内でTime-lapse video-imaging法を用いて観察した。 3.細胞内カルシウムイオン濃度との関係が報告されているアポトーシス関連タンパク質(p53,Bax,Bc1-2,Caspase-3,8,9)の温熱による発現・誘導をWestern blot法ならびに酵素活性法で確かめた。またp53の免疫染色を行なった。LK-2細胞株で温熱によるp53の発現・誘導がみられたが、免疫染色によるp53の局在は細胞質に優位であった。ヒト肺大細胞癌(LU65A)ではp53の発現・誘導は認めなかった。Bax, Bc1-2の温熱による発現・誘導はいずれの細胞ともに認めなかった。またCaspase-3,8,9の活性は温熱後48時間でいずれも有意に上昇した。 LK-2細胞株で温熱により発現・誘導されたp53タンパクは機能を喪失していると考えられた。組織型の異なる2種類のヒト肺癌細胞株とも、温熱誘導アポトーシスはp53非依存性のミトコンドリア経路とデス・レセプター経路との`cross talk'によって誘導されると推測される。
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