(目的)冬眠動物は冬眠期にのみ低温下で恒常性を維持する機構を発現することが知られている。このことは、冬眠動物の心臓は低温、虚血に対して耐性を獲得していることを意味している。今回我々は、冬眠現象を長時間の心保存に応用することを最終目標として研究を行った。 (方法)非冬眠期と冬眠期のシマリスを全身麻酔下に胸開し、inflow occlusionの後大動脈を遮断、その基部より4℃のUW液を注入して急速心停止を得た。摘出心をLangendorff潅流した後30分間の常温虚血におくか、または4℃のUW液中で24時間浸漬保存した後、Langendorff潅流した。左室バルーン法にて左室機能を測定、TUNEL法にて心筋細胞のアポトーシスを検出し、TTC染色法にて心筋梗塞サイズを定量した。 (結果)常温虚血後再潅流時の左室機能の回復率は冬眠期、非冬眠期のシマリスで差がなく、再潅流2時間後のアポトーシス、心筋梗塞サイズにも両群で差がなかった。一方、24時間心保存後の左室機能は、冬眠期シマリスで有意に良好であった。24時間心保存後の心臓では両群で心筋梗塞巣を認めなかったが、アポトーシスは非冬眠期シマリスで有意に増加していた。再潅流2時間後のアポトーシスは非冬眠期シマリスでさらに有意に増加した。心筋梗塞サイズも非冬眠期シマリスで有意に増大した。 (結論)以上の成績から、冬眠心臓は低温下においてのみ虚血耐性を発揮し、冬眠応用が心保存の新たな治療戦略になりうることが示唆された。
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