研究概要 |
<目的>冠状動脈バイパス術を中心とした自家グラフト移植手術における問題点の一つは内膜肥厚である.新生内膜増殖は,急性期には血管内腔を狭窄させ血流低下を招来して臓器虚血を惹起したり血栓閉塞の原因となり,慢性期にはマクロファージの集積を伴うプラークを形成し晩期閉塞の原因となりうる.我々は内膜肥厚の機序として,宿主血管とグラフトとの著しい径の違いやグラフト狭窄等による血流速の低下が剪断応力を減少させ,その結果内皮細胞機能に変調を来たしそれを代償するリモデリング現象として内膜増殖を惹起するという仮説に着目し,ラットの同種同系動脈移植モデルを用いて中枢側あるいは末梢側の吻合部狭窄がグラフト体部における新生内膜増殖に及ぼす影響を検討した。<方法>LEWIS : RT11ラットを用いて採取した胸部大動脈を腹部大動脈に同種同系移植し,吻合部狭窄のないN群と,中枢側(P)或いは末梢側(D)吻合部にグラフト体部径に対して75%となるように絞扼術を追加した狭窄群SP及びSDを作成した.移植時に超音波流量計により測定したグラフト体部の血流量から血流速(剪断速度)を計算し,グラフト体部に加わる剪断応力(SS)を算出した.移植30日後(N/SP/SD群:n=6/9/5)に犠牲死させ,グラフト体部における内膜と中膜の面積比:内膜/中膜×100(%)を算出した.また同部の内膜の性状を走渣電顕により観察するとともに,一酸化窒素合成酵素(NOS3)に対する抗体を用いて免疫組織学的検討を行った.<結果>グラフト体部と中枢側宿主血管におけるSS(N/m2)の較差はN群で0.19±0.09,SP群で0.78±0.18,SD群で0.53±0.03と狭窄群のいずれもN群と比較して有意(p<0.02)にSSの減少を認めた.内膜と中膜の面積比はN群6.0±2.5%,SP群48.3±6.7%,SD群21.3±4.3%と狭窄群で内膜増殖が有意(p<0.02)に高度であり,SP, SD両群間の比較においてはSP群で有意(p<0.02)に高度であった.また内膜増殖の程度はSP群でSSの程度と有意に負の相関関係を示した(p=0.0172).内膜性状に関してはN群でのみ内皮細胞による完全な被覆が認められ,またNOS3による染色ではN群で陽性の内皮細胞を多く認めた.<考案>自家動脈グラフト移植において,吻合部狭窄がグラフト体部の新生内膜の増殖を促すことが示唆された.その程度は中枢側吻合部狭窄で有意に高度であり,その機序として剪断応力低下に伴うNO合成低下を主体とした内皮細胞機能の変調が関与していることが示唆された.
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