我々は脳腫瘍に対する選択的治療法を確立するため、各種脳腫瘍、特に悪性脳腫瘍(神経膠芽種)におけるさまざまな遺伝子異常を検討し、統計的に解析し、その解析結果を脳腫瘍患者の臨床的特長と比較検討する作業を行ってきた。特に各種脳腫瘍のさまざまな遺伝子異常の解析においてアレイシステムを利用することを最終目的として、その基礎実験を進めてきた。 本研究期間において以下の結果を得た。 1)神経膠芽種においてアポトーシスと関連する遺伝子デコイレセプター3が高頻度に遺伝子増幅されており、本遺伝子の増幅頻度は悪性度と相関して高くなっていた。この事象は神経膠芽種がアポトーシス経路から回避され、不死化(悪性化)する原因のひとつであると考えられた。 2)中枢神経系悪性リンパ腫において、細胞周期関連遺伝子であるINK4aの相同的欠失が約6割において認められ、相同的欠失を認めるものにアポトーシス関連因子であるbcl-2が高頻度に高発現していた。またこれらの患者群は本遺伝子異常を有しない患者群にくらべ有意に予後が不良であった。 3)欧米人に比べ日本人に有意に高率に発生する頭蓋内杯細胞性腫瘍において、リンパ腫や奇形種の発症に関連するといわれているbcl-10の特異なSNP(single nucleotide polymorphisms)が有意に高率に認められた。本SNPが日本人における胚細胞種に発生に関与している可能性が示された。 以上の結果をもとに、更にアレイシステムを利用し、他の遺伝子群の発現との関連および臨床的特徴との関連を現在検討中である。
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