神経膠芽腫は外科的全摘出が不可能で、残存腫瘍に対する効果的治療がない。一方、本腫瘍の病理学上の特徴である壊死巣の原因は十分解明されておらず、壊死巣の形成機構が同定できればこれを利用した治療の開発に結び付く。ヒト神経膠芽腫の細胞死に結び付く遺伝子としてFas/AP01(CD95)の発現と壊死細胞との関係を報告し、Fas-ligand(FasL)のヒト神経膠芽腫における発現も見いだした。しかし、なぜFasとFasLが同時に発現するのかは不明である。FasLと強い親和性を示すdecoy receptor 3(DcR3)に注目し、Fas、FasLおよびDcR3の遺伝子発現および蛋白の過剰発現を神経膠腫の症例に対して解析を行った。 PcR3遺伝子の増幅の有無を半定量的PCR法を用い、DcR 3mRNAの発現をリアルタイム半定量的逆転写一PCR法にて、Fas蛋白及びFasL蛋白の発現を免疫組織化学法を用いてそれぞれ検討した。手術標本より得られた57例の星細胞系神経膠腫を対象とした。DcR3遺伝子増幅を星細胞腫(7例)では1例も認めず、退形成星細胞腫では16例中の1例に、神経膠芽腫では34例中の7例に認めた。DcR3mRNAの発現は、神経膠芽腫群でより高い傾向にあった。DcR3のDNAコピー数の異常とmRNA発現量との間には統計学的相関関係を認めた(p=0.02)。Fas蛋白は星細胞腫群では陽性反応を呈するものは1例も認めなかったが、退形成星細胞腫では16例中3例に、神経膠芽腫では34例中21例において腫瘍細胞に発現を認めた。FasL蛋白は星細胞腫7例中3例に、退形成星細胞腫16例中9例に、神経膠芽腫では34例中29例において腫瘍細胞に発現を認めた。以上より、DcR3は星細胞系神経膠腫の悪性化において重要な役割を果たしていることが示唆された。また、DcR3はFasやFasLに陽性を示す神経膠芽腫群で多く発現することから、Fas/FasL依存性の細胞死を回避する機能を有する可能性が推察された。
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