研究概要 |
ベーターアミロイド蛋白(AP)はアルツハイマー病に共通して見られる老人斑の核をなす物質であり、同疾患の原因物質と考えられ盛んに研究されている。我々は脳虚血モデルを用いて、アミロイド前駆蛋白(APP)の発現分布を観察し、その機能について考察した。ウイスターラットの右中大脳動脈を一時遮断する一過性脳虚血モデルを作成した。血管閉塞時間を15分、30分、120分の3群として、虚血3日後の組織標本にて生じた梗塞巣の分布とAPPの発現分布を免疫組織学的に評価した。更に30分閉塞群については虚血1日後、7日後についても観察した。APP発現細胞を同定するために、アストロサイトおよびミクログリア・マクロファージのマーカーとしてそれぞれGFAP,OX42との二重染色を行った。梗塞巣の評価には、隣接切片のHE染色及びNSE,GFAP免疫染色を用いた。閉塞時間の延長に伴い線条体、皮質に梗塞巣が拡大し、NSE(-)&GFAP(-)、NSE(-)&GFAP(+)、NSE(±)&GFAP(+)の3のタイプに分類された。APPは一部のアストロサイトに強く発現し、その他梗塞内の血管内皮、活性化ミクログリア・マクロファージが陽性となった。APP陽性アストロサイトは線条体の梗塞内の辺縁(特に側脳室近傍)、皮質梗塞域の脳表直下、梗塞巣に接する脳梁白質に分布したが、皮質の部分的ニューロン脱落領域;NSE(±)&GFAP(+)には存在しなかった。APPは虚血1日後には発現増強はなく、7日後では3日後同様に発現増強していた。結果、グリア由来のAPPには神経細胞保護の作用があると報告されているが、本実験におけるAPP陽性アストロサイトの出現時期及び分布からは、直接的に神経細胞保護の役割を果たしているのではなく、細胞接着やグリアの増殖分化に関与して組織修復に働いていると推察された。さらに同様の虚血モデルを用いて、APP及びAPの発現分布を虚血後、3、7、14、30、60日と比較的長期にわたり観察した。すべての例において血管閉塞時間は120分の1群のみとした。APPは虚血3日後より梗塞周囲のアストロサイトに発現し、これは60日後にも継続して認められた。またAPは、同様のアストロサイトに7日後より30日後のモデルまで観察された。アストロサイト内で発現したAPPは一部APへと代謝されるが、APの発現は長期にわたり持続せず、2カ月後には何らかの機構により除去されるものと観察された。
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