放射線性白質脳症を惹起する科学的要因の1つとして、放射線感受性の差が考えられるが、この感受性を規定する因子の1つとして、アリルサルファターゼA活性が重要な働きを担っているのではないかという仮説を立て、放射線治療を必要とする神経膠腫の患者間で、アリルサルファターゼ活性と遺伝子変異の有無と放射線白質脳症発生の関連につき検討した。 平成12年度にこの研究に同意を得られた患者からの採血、白血球抽出を行い、アリルサルファターゼA活性測定法を検討した。その結果、人工基質のP-ニトロカテコール硫酸塩をアリルサルファターゼAによりP-ニトロカテコールと硫酸塩に分解させ、515nmにて吸光度測定する人工基質法が最も簡便で普遍的と考えられた。 正常成人20例、神経膠腫患者20名の血液にて、アリルサルファターゼA活性を測定したところ、すべて正常範囲内(60-144:nモル/mg蛋白/h)で、両者間に統計的有意差は認められなかった。白血球分画からDNAを抽出し偽欠損を含むアリルサルファターゼA遺伝子異常を染色体22q13(E2400-PA2723間)で調べたが、検討した症例では明らかな変異は認められなかった。また、放射線治療後、治療に反応しNC-CRにある神経膠腫患者で、明らかな白質脳症と診断された5例と、白質脳症を呈していない患者5例につき、アリルサルファターゼA活性を測定し比較したが両群間に明らかな差は認められなかった。 以上より、残念ながら今回の検討ではアリルサルファターゼA活性と放射線性白質脳症の関連性を示すことが出来なかった。今後、症例数を増やして放射線量や照射範囲も要因に入れて検討する予定である。
|