研究概要 |
致死的脳虚血を加える前に、短時間の非致死的脳虚血を負荷しておくと、致死的脳虚血による脳損傷が抑制される現象があり、「脳虚血耐性」として注目を浴びている。これは内存性脳保護機構の活性化によって生じるものであり、遺伝子機構などの関与が推測され、今後の脳虚血保護・再生に向けた治療手段を考える上でも、この機序の検討は重要である。 昨年度の実験において、ラット中大脳動脈閉塞(MCA)を用いた、虚血耐性モデルを作成した。即ち、ラット中大脳動脈閉塞15分の前負荷(preconditioning)を加え、2〜3日後に90分虚血を行うと、前負荷を加えなかった群に比して有意に脳梗塞巣が縮小するモデルが作成された。 我々は、内存性蛋白分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP)が虚血脳損傷に関与し、虚血耐性の機序としてMMP-9の阻害因子であるTIMP-1が作用するとの考えをもっており、この仮説を証明することを目的に、本年度は以下の実験を行った。 (1) 90分のMCA閉塞を行った後2,4,6,12,24,48,144時間後にgelatin zymographyを用いて、MMP-9の発現を調べた。その結果、2時間後にはMMP-9はすでに発現し、48時間後に最も強い発現を示した。 (2) 15分のpreconditioning後のTIMP-1発現を調べると、48時間から72時間にかけて、その強い発現を認めた。 (3) 免疫染色によりpreconditioning後のTIMP-1の発現領域を調べると、虚血辺縁領域の血管周囲に強く認められた。 (4) 15分のpreconditioningから3日をおいて虚血負荷を加えた群では、その後のMMP-9の発現が全ての時期で抑制されていた。 以上の結果から、脳虚血損傷においてMMP-9が強く関与し、それに対する脳保護手段として、MMP-9の阻害因子であるTIMP-1の有用性が示唆された。
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