研究概要 |
「脳虚血耐性」とは致死的脳虚血を加える前に、短時間の非致死的脳虚血を負荷しておくと、その後の致死的脳虚血による脳損傷が抑制される現象である。これは内存性脳保護機構の活性化によって生じるものであり、いくつもの機構が重なり合って関与していると推測される。我々は、内存性蛋白分解酵素であるmatrix metalloprotease (MMP)の活性化が虚血脳損傷に関与し、また虚血耐性の機序の1つとして、MMPの阻害因子であるTIMP-1が作用するとの仮説を立て、その検証を行った。 (1)ラット中大脳動脈を15分閉塞する前虚血負荷(preconditioning)を加え、3日後に90分虚血を行った。Preconditioning群の血流再開通後の脳梗塞は68.6±17.3mm^3、一方非preconditioning群の梗塞は127.6±37.1mm^3でありpreconditioning群で有意に脳梗塞巣は縮小した。 (2)15分のpreconditioning後のTIMP-1発現を調べると、48時間から72時間にかけて、その強い発現を認めた。 (3)免疫染色によりpreconditioning後のTIMP-1の発現領域を調べると、虚血辺縁領域の血管周囲に強く認められた。 (4)90分のMCA閉塞を行った後0,6,24,48,72,144時間後にgelatin zymographyを用いて、MMP-9の発現を調べた。その結果非preconditioning群では、MMP-9の発現は6時間目から認め、48〜72時間後に最も強い発現を示した。 (5)15分のpreconditioningから3日をおいて虚血負荷を加えた群では、その後のMMP-9の発現が全ての時期で抑制されていた。 以上の結果から、脳虚血損傷においてMMP-9が強く関与し、それに対する脳保護手段として、MMP-9の阻害因子であるTIMP-1の有用性が示唆された。
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