研究概要 |
血管平滑筋の細胞内カルシウム濃度の変化が血管の収縮を制御している。ATPは脳血管攣縮の重要な因子と考えられており,過去の実験よりATPは脳血管平滑筋細胞の細胞内カルシウム濃度を上昇させる。今回このATPによる細胞内calcium濃度の変化において,protein tyrosine kinase(PTK)とmitogen activated protein kinase(MAPK)の関与について検討した。その結果,ATPはratの脳底動脈平滑筋細胞の細胞内カルシウム濃度を上昇させると同時にMAPKのリン酸化を引き起こし,これはPTKによって制御されていた。また犬のdouble hemorrhage modelを使用して脳底動脈の血管径とMAPKのactivityを比較検討した実験では,脳底動脈の血管径はday3,5,7と除々に減少したが、MAPKのactivityはday3にpeakが認められた。これは前年度,くも膜下出血患者から得られた髄液のうち,発症後3日目に採取されたものが脳血管平滑筋細胞に対して最大の収縮が見られたことと一致した。またMAPKの阻害薬であるPD98059は血管の収縮とMAPKのactivityを抑制した。このことは様々な刺激に対する細胞内signal transductionに関与しているとみられているMAPKが,脳血管攣縮にも重要な役割を演じているものと考えられ,PD98059が脳血管攣縮の治療につながる可能性を示唆した。
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