研究概要 |
近年、画像診断の進歩に伴い、CT・MRIにより偶然発見される下垂体の腫瘤生病変いわゆるincidentalomaの発見される頻度が高まっているが、その治療方針は明確にされていない。incidentalomaの自然史ならびに生物学的特性を明らかにする事を目的に本研究を行った。 下垂体偶発腫(pituitary incidentaloma)に関して全国多施設二次調査を実施した。その結果40施設から506症例(男213例、女293例)が回答された。内訳は、手術施行258例(51%)、6ヶ月以上視察した上で手術10例(2.0%)、非手術(6ヶ月以上観察)238例(47.0%)であった。手術例計268例における診断の契機は、頭痛40%、脳ドック16%、めまい等11%であり、手術理由は鞍上進展(大きい腫瘤)58%、患者の希望10%であった。組織診断は非機能性腺腫81%、ラトケ嚢胞等19%、観察例計248例における推定診断は腺腫46%、ラトケ嚢胞40%、その他の嚢胞4%等で、腫瘤の経過は、不変70%、縮小12%、増大10%であった。縮小した群ではラトケ嚢胞と推定された例が52%と多く、増大した群では腺腫とみられた例が80%であった。非機能性腺腫の免疫染色の結果、ホルモン非産生性が54%と多かったが、46%は何らかのホルモン陽性で、その多くはゴナドトロピンサブユニット陽性であった。また、incidentalomaも含めた非機能性腺腫197例においてそれぞれのホルモン産生細胞への機能分化を支配する転写活性因子の発現を検討した。その結果、pit-1陽性率は60.9%,NeuroD1:71.7%,SF-1:54.8%,DAX-1:100%,GATA2:58.1%であり、非機能性腺腫の潜在的機能分化には機能性腺腫で提唱されているような細胞系譜によらない、異なるメカニズムが存在する可能性が示唆された。
|