研究概要 |
新鮮屍体肩8肩を入手したが、そのうち3肩は腱板断裂のため本実験に使用できず、残る5肩を対象にした。腱板は肩甲骨から剥離し、関節包の下半分を十分に展開した後に、肩甲骨を肩関節固定装置に上肢下垂位で取り付けた。測定項目は関節内圧、関節容量、骨頭位置であり、前年度と同様の手技で行った。測定条件:1)関節包を正常、熱関節包縫縮術処置を加えた状態の2段階に変え、2)下方負荷を0kg,0.5kg,1kgの3段階に変えた。1肩を用いて予備実験として熱関節包縫縮術を鏡視下に施行した。肩関節周囲の軟部組織を関節包以外は除去してあるため、前後のポータルから還流用生食が流出し、内圧の保持が困難で、関節内操作も困難を極めた。また、内圧実験のためには、プローブ挿入用の前方、後方のポータルを塞ぐ必要が生じ、前後のポータルをそれぞれ縫合した。しかし、これらの縫合処置が関節腔の容量を減少させるため、厳密には熱縫縮の効果を正確に評価することは不可能であることが判明した。そのため、当初の計画を変更し、残る4肩を前年度の前後の下方関節包縫縮術実験に供し、実験例数を6肩から10肩に増やすことで、より信憑性の高いデータを得ることにした。 本年度分の結果は、正常の関節腔容積は42.5±2.6ml、前方関節包縫縮後には27.3±6.4ml、後方関節包縫縮も追加した後には15.8±3.6mlに減少した。骨頭の下方偏位は関節内圧が保持されている間は、縫縮の有無に関わらず5mm以内に留まった。関節内圧を除去すると骨頭は下方脱臼を呈した。関節包縫縮により下方偏位は減少したが、なお亜脱臼状態であった。関節内圧は縫縮前には負荷により-140cm水柱圧まで直線的に減少したが、前方縫縮後、後方縫縮後にも同様な内圧減少が認められ、条件間で有意な差は認められなかった。
|