(目的)実験的脊髄損傷において脳由来神経栄養因子(BDNF)がoligodendrocyteのapoptosisを抑制している可能性について検討すること。また、BDNFをはじめとする薬物療法の効果判定のためにMRI撮像の準備をすることが本研究の目的である。(方法)(1)ラット脊髄不全損傷モデルに対してBDNFを髄腔内投与し、損傷後時間経過を追ってパラフィン切片を作成した。(2)核染色および活性型caspase-3免疫染色-TUNEL染色にてapoptosisの証明をした。(3)TUNEL染色と細胞マーカーの二重染色をおこない、apoptosis細胞の種類を同定した。(4)TUNEL染色陽性細胞数をBDNF投与群とコントロール群で比較した.(結果)損傷後早期より損傷部にはapoptosis細胞が観察された。TUNEL染色陽性細胞は損傷部では灰白質に主にみられ、その数は損傷後3日でピークとなり以後漸減した。これに対し頭側・尾側では損傷後3日より白質のみに陽性細胞が出現し、損傷後1週でピークとなり以後漸減した。二重染色では、損傷部灰臼質の陽性細胞はニューロン・ミクログリアで、頭側・尾側の白質の陽性細胞はオリゴデンドロサイトだった。すなわち頭側・尾側において、遅発性にオリゴデンドロサイトのapoptosisがおこっていた。BDNF投与群とコントロール群でTUNEL染色陽性細胞数を比較すると、損傷部では両者に有意差はなかったが、頭側では損傷後1週・2週で、尾側では損傷後3日・1週でBDNF投与群の陽性細胞数が有意に減少していた。MRI撮像に関してはコイルを試作し、撮像の条件を検討している。(考察)BDNFは脊髄損傷後遅発性に生じるオリゴデンドロサイトのapoptosisを抑制していた。この作用が髄鞘の保護に働き、脊髄の機能保持・修復に役立っている可能性があると思われる。また同様のモデルでBDNF投与により、superoxide dismutaseのup-regulationが起こることを検討しており、これらもアポトーシス抑制機序の一つと考えられる。
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