研究概要 |
カニ腱を化学処理することによりチューブ状にし(キトサンチューブ)、これを人工神経用にデザインする方法を考案した。まず円形と三角形、二種類の形状を持つチューブを作製し、異形断面の効果を検討した。また、ラミニンペプチドを共有結合させ、その神経再生に及ぼす効果を判定した。 Texture Analyzer Stable Micro Systems TM TA-XT2iを用い、一定の歪み速度でチューブを圧縮させたときの力を測定した。各歪力に対する圧縮力は三角形の断面が円形断面より大きく、HApコーティングチューブがしないチューブより大きい傾向にあった。Sheffeの検定では、三角形の断面を持つHApコーテイングチューブが、コーティングしない円形、三角形断面のチューブより優位に大きかった。 ラミニンとラミニンペプチド(YIGSR、IKVAV配列)をキトサンチューブに共有結合させた。これらのチューブを用いてSDラットの右坐骨神経に長さ15mmの架橋移植を行った(各群N=20)。同系神経移植を対照とした(N=5)。縫合後1,2,4,6,8週で3匹ずつ、実験群の移植チューブより試料を採取して組織学的槻察を行った。移植後12週で実験群と対照群の移植チューブ中央部、及び遠位縫合部より10mm末梢から試料を採取して組織学的観察を行なうとともに、再生軸索占有率を計測した(各群N=5)。さらに、移植部の近位で電気刺激して左右のM波を記録し、その比を求めた。 HApコーティングした三角形のキトサンチューブにラミニンとラミニンペプチド(YIGSR、IKVAV配列)を吸着させ、SDラットの右坐骨神経に架橋移植して(各群 N=5)、12週後に同様の方法で神経再生を評価した。 ラミニン群とラミニンペプチド群の両群において、チューブ壁に沿って活性化線維芽細胞が配列し、その間に神経組織が再生された。これは、チューブに結合したラミニンやラミニンペプチドが、再生神経組織の伸長を直接促進する効果を及ぼすことを示唆する。全観察期間を通して再生組織とチューブ壁の接触長は、ラミニン群>YIGSR群>IKVAV群>無処理群だった。また、移植後12週での軸索占有率(ラミニン群が最大)、終末潜時の比(ラミニン群が最小)もこの順に良好な結果を示した。以上の成績を検討すると、YIGSRに次いでIKVAV配列の結合がラミニンに匹敵する神経再生促進効果を示している。
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