この期間の主な研究成果は、種々の整形外科疾患においてCD-RAPが発現し、整形外科臨床において有用なマーカーとなる可能性を示したことである。 我々は世界で初めて、脊椎・脊髄疾患の髄液中にCD-RAPが多量に発現していることをみいだした。髄膜種、神経鞘腫、くも膜嚢腫、頚髄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊柱側わん症の患者より髄液を採取し、CD-RAP値をELISA法を用いて計測した。脊椎・脊髄疾患のないコントロール群では、年齢とCD-RAP値には弱い正の相関がみられた。脊柱管狭窄を示す疾患群の髄液中CD-RAP値は、コントロール群より有意に高値を示し、CD-RAPは脊髄神経への損傷やストレスにより発現が誘導され、髄液中に存在することが示された。 整形外科臨床において、脊椎・脊髄疾患と並んで患者数の多い変形性関節症及び外傷性水腫、リウマチ性関節炎についてその関節液中CD-RAP濃度と臨床症状との相関を調べた。いずれの疾患においても早期にCD-RAP濃度は上昇し、疾患が進行するとともに低下した。CD-RAPは、幼弱な軟骨細胞から産生されることにより、関節液中CD-RAPは、軟骨の修復過程を反映していると考えている。早期に、かつ鋭敏に変化を検知できることから、CD-RAPは、軟骨破壊及び修復の鋭敏なマーカーとなり、軟骨疾患において予後と治療に重要な情報を与える可能性がある。 整形外科で扱う悪性腫瘍の一つである軟骨肉腫は、放射線療法、化学療法が殆ど無効であり、治療としては外科的切除が唯一の治療法である。我々は、実験的ラット軟骨肉腫において、血清中のCD-RAPが有意に高値を示すことを示した。特記すべき点は、腫瘍が肉眼的に発見できるより前に血清CD-RAP値は上昇し、切除すると正常値に戻るが、再発した例では、肉眼的に発見できるより前にCD-RAP値は上昇した。
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