研究概要 |
本年度は、悪性骨軟部腫瘍の臨床サンプルよりRNAを抽出、腫瘍特異的な融合遺伝子発現と従来のH.E.標本に基づく組織学的診断との異同、融合遺伝子のvariationと各腫瘍の臨床病理学的特徴の関連について検討した。 1.悪性軟部腫瘍の診断における融合遺伝子発現検索の意義 悪性軟部腫瘍は組織像が多彩なこと、その発生頻度が稀であることなどより、通常の組織学的検索では診断に苦慮することも多い。我々は融合遺伝子の解析が悪性軟部腫瘍の診断に有用か否かを明らかにする目的で、75例の悪性軟部腫瘍における各種融合遺伝子の発現をRT-PCRにより検討し、H.E.標本に基づく組織学的診断と比較した。その結果、滑膜肉腫の94%、ユーイング肉腫の75%、粘液型脂肪肉腫の100%で各々SYT-SSX、EWS-FLI1、FUS-CHOP融合遺伝子が検出され、分子生物学的解析の結果は組織学的診断結果と高い一致率を示した。また、組織学的には診断困難とされた3例がSYT-SSX融合遺伝子の検出によって滑膜肉腫と確定診断されるなど、RT-PCRによる融合遺伝子発現の検索は、悪性軟部腫瘍の補助診断法として有用であることが示された。 2.融合遺伝子のvariationと臨床病理学的特徴の関連 滑膜肉腫73例においてSYT-SSX融合遺伝子のvariation(SYT-SSX1,SYT-SSX2)と組織学的subtype(単相性,二相性)との相関を調べた。その結果、二相性滑膜肉腫は全例がSYT-SSX1遺伝子を有したのに対して、SYT-SSX2遺伝子を有する腫瘍は全て単相性滑膜肉腫であり、融合遺伝子のvariationと滑膜肉腫の組織学的subtypeの間には有意な関連(p=0.001)が認められた。
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