6週齢ラット関節軟骨全層欠損モデルを用いて、軟骨組織により修復される幅0.7mmの小さな欠損と、線維性組織で修復される幅1.5mmの大きな欠損におけるBMPシグナリングについて検討した。欠損作成後、欠損中心領域におけるBMP-4、BMP-6、GDF-5とその受容体BMPRIA及びIB、BMPRII、ActRII/IIBの発現と局在について、免疫染色とin situ hybridyzation法を用いて経時的に観察した。幅0.7mmの欠損の軟骨修復過程では2日目、欠損中心の細胞にはBMP-4を含めリガンドの発現はみられなかったが、mRNAは発現していた。一方、受容体については、BMPRIA及びIB、BMPRIIはいずれも蛋白レベル及び遺伝子レベルで発現していた。4日目にBMP-4の蛋白の発現がみられた。BMP-6は発現していなかった。GDF-5はわずかに蛋白レベル及び遺伝子レベルでの発現がみられた。BMPRIA及びIB、BMPRIIは、2日目と同様にほとんどの細胞に発現していた。7日目には欠損中心の細胞はtype II collagen mRNAを発現する多角形細胞となり、BMP-4はその細胞と周囲の細胞に発現していた。またBMP-6とGDF-5も多角形細胞に発現していた。受容体については、いずれも多角形細抱とその周囲の細胞に発現していた。軟骨基質がみられる2週目には、BMP-4及びBMP-6はほとんどの軟骨細胞に蛋白レベル及び遺伝子レベルで発現していたのに対し、GDF-5の発現は肥大軟骨細胞に限局していた。また受容体はいずれもほとんどの軟骨細胞に発現していた。 一方、幅1.5mmの欠損の線維性修復過程では、BMP-4は2日目では遺伝子レベルでのみ発現しており、4日目でわずかな細胞に蛋白レベル及び遺伝子レベルで発現していた7日目では遺伝子レベルでのみ発現していたが、それ以降発現はみられなかった。BMP-6及びGDF-5の発現は全時期を通じみられなかった。受容体についてはBMPRIA及びIB、BMPRIIはいずれの時期でも発現していた。今回の結果は、関節軟骨全層欠損の軟骨修復過程におけるBMPシグナリングにっいて、BMP-4シグナルは軟骨修復過程の開始に重要であること、BMP-6シグナルは軟骨細胞の成熟や肥大化へ関与している可能性があること、またGDF-5シグナルは軟骨細胞の肥大化に関与している可能性があることを確認するものと考えられた。
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