Tumor necrosis factor(TNF)は、椎間板ヘルニアによる神経根障害、特に神経根性疼痛の発現上、重要な働きをしていると考えられてきた。この仮説が真実ならば、抗TNF薬剤は椎間板ヘルニアによる神経根障害を防ぐ作用があるはずである。椎間板髄核を神経根上に投与する椎間板ヘルニアモデルでは、脊髄後根神経節(DRG)の内圧(endoneurial fluid pressure)は上昇し、DRG内には浮腫が惹起されるこは、既に報告している。本研究の目的は、椎間板髄核を神経根上に投与した後に、抗TNF薬剤を直接神経根上に投与することで、DRG内圧の上昇や浮腫が予防できるか否かを検討することである。 [対象と方法]雌SDラット11匹の左第5腰神経根とそのDRGを対象とした。尾椎椎間板から採取した髄核をDRGのすぐ中枢部の神経根上に投与した。その髄核と同時に1000μg/mlの濃度のpentoxifylline(抗TNF薬剤)を20μl含んだスポンゼルを設置した(NP+PTX群)。対照として生理食塩水20μl含んだスポンゼルを設置した(NP+PS群)。この2群に対して、髄核とスポンゼルを設置する前と設置後3時間のDRG内圧をマイクロピペット法を用いて計測した。計測後にDRGを採取して組織学的検討を行った。 [結果]髄核とスポンゼルを設置する前のDRG内圧は、NP+PS群では2.4±1.2cmH2Oであり、NP+PTX群では1.8±0.4cmH2Oであった。2群間に有意な差は認められなかった。しかし、髄核とスポンゼルの設置後3時間では、NP+PS群では8.6±1.8cmH2Oであり、NP+PTX群では2.9±0.8cmH2Oであった。NP+PTX群におけるDRG内圧は、NP+PS群に比して有意に低い値であった。組織学的には、NP+PTX群で認められるDRG内の浮腫像は、NP+PS群に比して明らかに少なかった。 [結論]pentoxifylline(抗TNF薬剤)の局所投与は、髄核投与によって惹起されるDRG内の変化を減少する効果があることが判明した。
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