本年度は、運動神経より神経誘導に優れる知覚神経のSchwann細胞の特徴を検索した.実験には10週齢のマウスを使用し、運動神経束と知覚神経束を含む大腿神経より横断組織標本を作成した.最初に、蛍光抗体法による免疫染色によって、運動神経と知覚神経束断端の接着分子(L1、P0、MAG)の発現、糖鎖抗原(HNK-1)の発現の違いを調査した.結果は、接着分子の発現には差がなく、一方HNK-1糖鎖抗原は、運動神経束に含まれるSchwann細胞に著しく発現し、知覚神経束では見られなかった.HNK-1は、in vitroの研究では接着を阻害する働きが指摘されており、そのためin vitroでも、これを発現しない知覚神経片が神経誘導能に優れるものと思われた.次に、大腿神経を鼠径部で切断し、その1週、2週、3週後に切断遠位部の横断組織標本を作成して、HNK-1の発現を追跡調査した.結果は、切断直後の運動神経束で大量に発現していたHNK-1が、切断後時間を経てWaller変性が進行するに従って、その発現量を低下させていることが判明した.すなわち、運動神経束のSchwann細胞は、軸索と接して髄鞘を巻いている場合にHNK-1を発現しており、周囲の環境によって糖鎖抗原の発現を変え、その担う機能を調節している可能性が示唆された.
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