睡眠と麻酔は一過性の意識消失を伴うという共通点があるため、睡眠調節機構と麻酔メカニズムの関連は非常に興味深い。そこで、睡眠に関わる様々な刺激を実験動物に加えた上で麻酔薬を投与し、その麻酔薬の作用の変化を研究した。 まず、睡眠を増加させる最も代表的な刺激である断眠と麻酔薬の作用の関係を検討した。ラットを用いて、4時間、6時間または8時間の断眠を行い、さらに静脈麻酔薬のケタミンまたはプロポフォールを腹腔内に投与して、その作用を正向反射の消失時間で評価した。その結果、断眠の長さに従って麻酔薬の作用が延長が認められた。さらに8時間の断眠とケタミンの相互作用を、ラットの脳波と筋電を測定することによって詳細に検討した。この脳波と筋電を用いた研究においても、断眠はケタミンの麻酔作用を増強した。さらに、ケタミンは断眠による睡眠増強作用を抑制しないことも明らかになり、以上のことから生理的な睡眠調節機構の増強は麻酔作用をも増強することが示唆された。 さらに、睡眠調節に関わっているサイトカインであるインターロイキンー1(IL-1)および腫瘍壊死因子(TNF)と静脈麻酔薬ケタミンまたはプロポフォールの麻酔作用の検討をした。IL-1またはTNFを脳室内または腹腔内に投与してすぐに麻酔薬を投与した場合、これらのサイトカインがケタミンおよびプロポフォールの麻酔作用を短縮することがわかった。これは、これらのサイトカインがケタミンおよびプロポフォールの麻酔作用を短縮することがわかった。これは、これらのサイトカインが投与直後に痛みに対する過敏性を増すことと関係しているのではないかを考察している。 以上のように、脳内の睡眠調節機構は麻酔と深く関わっていることが本研究によって徐徐にあきらかにされており、来年度も引き続き研究を進めていく。
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