延髄大縫線核から脊髄後角に投射するセロトニン(5-HT)系下降抑制性系は、脊髄での疼痛伝達の抑制に重要な役割を果たしており、動物を用いた急性痛の実験では、髄腔内に5-HTを投与すると鎮痛作用を示すことが知られている。脊髄後角には複数の5-HT受容体のサブタイプが存在し、その中でも5-HT_<1A>、5-HT_<1B>、5-HT_2、5-HT_3受容体が脊髄後角で急性痛の抑制に関与すると報告されている。しかし、これらの受容体の刺激がニューロパシックペインを抑制するか否かは明らかになっていなかった。そこで、ラットのニューロパシックペイン(アロディニア)モデルを用いて、これらの受容体に特異的な作動薬を髄腔内に投与したところ、5-HT_2受容体作動薬のみが抗アロディニア作用を示すことが明らかとなった(Pain 2001;90:173-179)。この成果をもとに、5-HT_2受容体作動薬の抗アロディニア作用の機序について研究を進めた。5-HTは中枢神経系でいくつかの神経伝達物質の放出に関与していることが知られている。たとえばアセチルコリン、ノルアドレナリン、アデノシン、GABAなどであり、いずれも脊髄で抗アロディニア作用を発現する。これらの受容体の特異的拮抗薬をあらかじめ髄腔内投与しておき、続いて5-HT_2受容体作動薬を投与したところ、ムスカリン受容体拮抗薬のみが、5-HT_2受容体作動薬の抗アロディニア作用を減弱できることが明らかとなった(Brain Res 2002;932:124-128)。アセチルコリンは脊髄後角で、主にムスカリン受容体を介してニューロパシックペインを抑制することが知られており、この結果は、脊髄後角で5-HT_2受容体作動薬がアセチルコリンの放出を介して、抗アロディニア作用を発現することを示唆する知見である。
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