今回吸入麻酔薬のイソフルレンとベンゾジアゼピン系鎮静薬のトリアゾラムを用い、ラットとマウスにおける体内時計への影響を調べた。 イソフルレンは各種時間帯で4時間もしくは8時間ラットに投与したが、行動リズムに位相変位を生じなかった。視交叉上核における位相の変化の有無を、分子レベルで検討するために、時計遺伝子mPer1の視交叉上核および大脳皮質での発現を麻酔中、麻酔後に検討した。 マウスにおいては、投与終了後の視交叉上核(SCN)におけるmPer1 mRNA発現パターンに変動はなかったものの、投与中の発現量は上昇していた。このことはイソフルレンが位相変化は起こさないもののその発現機構に何らかの影響を与えることが考えられる。 麻酔薬による低血圧や呼吸抑制などの影響を考え今回は1.5MACを用いたが、今後麻酔濃度や、投与時間を変えて詳しく見て行く必要がある。 また、我々はトリアゾラムを腹腔内に投与して、行動の変化、Per1の発現を検討した。トリアゾラムはハムスターでは行動リズムの位相変位を起こすことが報告されているが、今回ラットを用い同様の実験を行ったところ、同じ結果は得られなかった。またトリアゾラム、PTZともにマウスにてSCNでのmPer1 mRNAの発現量には影響を与えなかったが、大脳皮質において、mPer1 mRNAの発現量の多い時間帯ZT16に投与した時には、トリアゾラム投与群では発現量の減少、PTZ投与群では上昇がみられた。 大脳皮質におけるPer1にもサーカディアンリズムが存在する事が知られており、このような発現量の変化によって、大脳皮質のリズムに乱れが生じる可能性もある。このような大脳皮質でのサーカデイアンリズムの狂いが、老齢者においては、睡眠、覚醒のリズムを狂わせる可能性もあり今後老齢動物を用いた検討も予定している。 この2年間の結果より、イソフルレンとトリアゾラムは視交叉上核および大脳皮質を含む視交叉上核以外の神経組織においてmPer1 mRNA発現量に影響を与えることが示唆された。今後、リズムの維持機構やmPer1以外の時計遺伝子への影響、そして他の麻酔、鎮静薬の効果などさらに実験を進めて行きたいと考えている。
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