急性肺傷害の治療において炎症を終息させるためには肺胞に集積している好中球のアポトーシスを亢進させ好中球数を減少させることが重要であると考えられる。成人ヒトの末梢血から好中球を分離し抗Fas抗体でアポトーシスを誘導しそれに対するフォスフォジエステラーゼ阻害薬(ロリプラム)及び麻酔薬(リドカイン、プロポフォール、ミダゾラム、ケタミン)の影響を臨床血中濃度とその10倍濃度で検討した。ロリプラムは好中球のアポトーシスを促進したが麻酔薬は好中球のアポトーシスには影響しなかった。さらにマウスのエンドトキシン処置24時間後の肺組織を用いTUNEL法でアポトーシスを検出したところ多数の肺胞II型上皮細胞でアポトーシスを認め急性肺傷害の発症に肺胞II型上皮細胞のアポトーシスが関与していることが示唆された。ロリプラムおよびプロポフォールはII型上皮細胞のアポトーシスを抑制したがりドカイン、ミダゾラム、ケタミンは抑制できなかった。ロリプラムのアポトーシス抑制効果は培養肺胞II型上皮細胞の増殖を亢進することと考えあわせると急性肺傷害時の肺胞上皮修復に有利に働くかもしれない。またマウスにロリプラムとKGF/HGFを投与しBrdUを処理後抗BrdU抗体染色で免疫組織学的に検討するとKGF/HGFによるDNA合成がロリプラムで亢進した。将来的には抗Fas抗体投与と同時にロリプラム投与により好中球にアポトーシスを誘導しまた肺胞上皮細胞ではアポトーシスを抑制することにより急性肺傷害を軽減できるかのin vivo研究が必要であろう。
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