脳虚血における神経細胞死はネクローシスであると考えられてきた。しかし近年、脳梗塞の辺縁ではアポトーシスによる神経細胞死も発生することが観察されている。脳梗塞におけるアポトーシスは、1.ミトコンドリアの膜電位が低下 2.ミトコンドリア内チトクロームcやアポトーシス誘発因子が細胞質へ遊離 3.これら誘発因子によりカスペース3(蛋白分解酵素)が活性化、により核タンパク質が分解されるために発生すると考えられている。そこで当研究室では大脳皮質のNADHの蛍光を観察し、ミトコンドリア電子伝達系の停滞状態を、非侵襲的に高い空間分解能(30μm×30μm)で測定した。これにより、ミトコンドリア電子伝達系の停滞と神経細胞障害には強い相関関係があることがわかった。本年度は、虚血辺縁における電子伝達系の停滞と梗塞巣の拡大の因果関係を調べる目的でNADH蛍光の変化を観察した。キセノンランプで365nmの紫外線を脳表に照射し、大脳皮質ミトコンドリアのNADH(90%以上のNADHはミトコンドリア内に存在する)を励起した。虚血開始後、脱分極領域(虚血の中心)が約20分間で形成された。虚血辺縁ではNADH蛍光の上昇を伴う脱分極の波が度々発生し(計220回)、そのうち86%の波は梗塞巣のコアと合流することなく消失(spread out type)したが、14%の波はコアと癒合し消失せず(expansion type)梗塞巣が拡大した。spread out typeの波は選択的神経細胞障害を引き起こし、expansion typeの波は梗塞を引き起こすことがわかった。
|