胸腔鏡下交感神経遮断術16例を対象として、胸部交感神経幹誘発電位の記録を試みた。交感神経を直接内視鏡用双極鉗子を用いて1-5mAで電気刺激を行ったところ、13例で同側の手掌や対則の手掌の一部で誘発電位を認めた。潜時が1-2秒で多相性の電位が得られた。腋窩や胸部、足底などでは誘発電位は認められなかった。電気刺激による重篤な合併症は認められなかった。今回の検討により、1)胸部交感神経幹の電気刺激により手掌に特異的な誘発電位が測定可能であること、2)胸部交感神経幹は一部反対側へも電気的接続が存在していること、3)胸部交感神経刺激による誘発電位の振幅や潜時は、刺激条件のみならず、反復刺激による影響が大きいこと、4)第2、第3肋骨レベルでの遮断後、第2-第3肋骨間レベルでの胸部交感神経幹誘発電位は消失すること、5)第2、第3肋骨レベルでの遮断後、第2肋骨レベルより頭側での胸部交感神経幹誘発電位は認められるが、第3肋骨レベルより尾側での胸部交感神経幹誘発電位は認められないこと、などが明らかとなった。これらの結果は、多汗症の病態解明、交感神経遮断術の至適遮断範囲の決定のみならず、ヒトの交感神経の解剖に新知見を与えるものであると考えられた。
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