研究概要 |
原発性手掌(腋窩)多汗症やCRPSの治療として、胸腔鏡下交感神経遮断術が広く行われるようになっているが,その交感神経遮断の範囲と程度を術中にモニタリングする目的で,胸部交感神経幹誘発電位の記録を試みた。準備研究として両側の胸部交感神経幹を第2、3胸椎(肋骨)レベルで電気焼灼する胸腔鏡下交感神経遮断術を18例に対して行ったところ,第2・第3胸椎(肋骨)レベルの肋骨上で遮断が可能であった場合は、全例手掌を含む顔面から胸部までの発汗が停止した.手術による重篤な合併症は認められず、自律神経失調症状や血圧低下、徐脈、低血圧などの循環不全状態も認めなかった.以上のことから、交感神経遮断レベルは第2、3胸椎(肋骨)レベルで十分であると考えられたが、今後、最小限の代償性発汗と合併症である手術が施行できるように、16例を対象として、同手術中に胸部交感神経幹誘発電位の記録を試みた。交感神経を直接内視鏡用双極鉗子を用いて1-5mAで電気刺激を行ったところ、13例で同側の手掌や対側の手掌の一部で誘発電位を認めた。潜時が1-2秒で多相性の電位が得られた。腋窩や胸部、足底などでは誘発電位は認められなかった。電気刺激による重篤な合併症は認められなかった。今回の検討により、1)胸部交感神経幹の電気刺激により手掌に特異的な誘発電位が測定可能であること、2)胸部交感神経幹は一部反対側へも電気的接続が存在していること、3)胸部交感神経刺激による誘発電位の振幅や潜時は、刺激条件のみならず、反復刺激による影響が大きいこと、4)第2、第3肋骨レベルでの遮断後、第2第3肋骨間レベルでの胸部交感神経幹誘発電位は消失すること、5)第2、第3肋骨レベルでの遮断後、第2肋骨レベルより頭側での胸部交感神経幹誘発電位は認められるが、第3肋骨レベルより尾側での胸部交感神経幹誘発電位は認められないこと、などが明らかとなった。これらの結果は、多汗症の病態解明、交感神経遮断術の至適遮断範囲の決定のみならず、ヒトの交感神経の解剖に新知見を与えるものであると考えられた。
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