研究概要 |
心臓手術後の脳浮腫・血液脳関門の破綻の原因が,縦隔手術野の血液を返血することにより生じるのかどうかを検討した.従来の報告から体外循環を単純に回しただけでは脳浮腫・血液脳関門の破綻は生じないとされており,今回は家兎を開胸し,縦隔手術野の返血モデルを作成した. 【方法】イソフルランを用いて家兎を麻酔し,筋弛緩薬で非動化・人工呼吸を行なった.右の大腿動脈,左の外頚静脈からそれぞれ血圧,中心静脈圧を測定した.胸骨切開後ヘパリンを投与(5mg/kg)し,活性凝固時間を450秒以上とした.経左室的に送血管(サーフロー路針20G)を上行大動脈まですすめ,コントロール群はこの状態で60分維持,返血群は内胸動脈などを擦過損傷させ60分でおよそ50mlの血液を縦隔内に出血させ送血管より返血した.返血群では家兎の左眼に経頭蓋ドップラーモニタを装着し,眼動脈より塞栓の検出を試みた.その後エバンスブルー100mg/kgを緩徐に静注し10分後に4%ホルマリンで潅流固定を行い脳を取り出した.エバンスブルー漏出の程度を検討した. 【結果】返血群では返血に伴って経頭蓋ドプラで塞栓が著明に検出された.コントロール群ではエバンスブルーの漏出は見られなかったが,返血群では軽度の漏出を認めた. 【まとめ】今回の検討から,縦隔手術野血の返血が血液脳関門の破綻を生じる原因になっている可能性が示唆された.今後脳浮腫・血液脳関門の破綻の程度をより詳細に検討し,原因となっている塞栓の性状の検討を行ってゆきたい.S-100蛋白やneuron-specific enolaseが脳以外からも分泌されていることを臨床症例で確認した.したがってこれらが常に脳障害や血液脳関門破綻の指標となるとは限らないため,今後はサイトカインの定量と脳浮腫・血液脳関門の破綻の関連を検討し,フィルターの予防効果や,抗サイトカイン療法,実際に臨床で使用されているステロイドやアプロチニンが脳浮腫やサイトカイン値にどのように影響するかを検討していく予定である.
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