高濃度局所麻酔薬による神経細胞膜の可溶化が不可逆的神経障害の機序のひとつであるとの我々の説を証明するために以下の実験を行った。 1)電流刺激閾値(CPT)を用いた局所麻酔薬による神経障害の評価法の確立 局所麻酔薬による神経毒性に関する動物実験での神経障害の評価方法は従来テイルクランプ、熱線照射等による反応を観察することであったが、我々は電流刺激による疼痛閾値を測定することにより神経障害を定量的に評価できるか否かを調べた。後頭骨環椎間膜からくも膜下腔に29Gのポリエチレンチューブ(PE10)を挿入したラットを用いて、リドカインのくも膜下投与を行った。リドカイン注入4日後、5%以上のリドカイン注入群では後肢の知覚鈍麻や麻痺を認めた。CPTの上昇は知覚鈍麻や麻痺をきたした群に一致して認められ、しかもリドカイン濃度依存性に増大した。この実験によりニューロメーターを用いて神経障害の定量的評価ができることを示した。 2)くも膜下リドカイン投与による神経障害の免疫組織学的評価 神経学的所見およびCPTでの所見と組織学的所見を比較した。実験1のラットを用いてリドカインのくも膜下腔投与4日後、50μmの凍結切片を作成し、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、カルレチニン(CR)の免疫組織染色を行った。神経学的所見およびCPTで神経障害をきたしたと評価されたリドカイン5%以上の群においてCGRP、CR陽性細胞はリドカイン濃度依存性に減少し、脊髄後角で著明であった。神経障害評価においてニューロメーターの所見と組織学的所見が一致した。 3)水溶液特性から予測される局所麻酔薬の神経障害発現濃度の動物実験による検証 上記の実験を踏まえ我々の説を証明すべく現在、界面活性剤によるラットの神経障害モデルを作成し、可溶化濃度以上で不可逆的神経障害をきたすか否かを調査中である。これまでの結果は2001年の日本麻酔学会で発表予定である。
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