体外循環中に発生する脳障害の早期検出および病態把握に対する近赤外光計測法(NIRS)の有効性を評価する目的で、イヌを用いた超低体温下完全循環停止(脳血流停止)モデルを作成した。<方法>イヌを用いて体外循環下に体温を15℃まで低下させ、60分間の完全循環停止を行った後、復温し体外循環を離脱した。体外循環開始前に、皮膚を切開し頭蓋骨にNIRS測定プローブを、また、頸動脈を露出し超音波直流計を装着した。内頸静脈よりオプチカテーテルを逆行性に挿入し内頸静脈酸素飽和度(SjvO2)を連続的にモニタし、さらに、脳障害の指標であるシュワン細胞由来のS-100b蛋白の血中濃度を経時的に測定した。以上の検査結果及び測定値変化と、NIRSにより得られた脳内酸素化状態とを比較検討した。<結果および考察>SjvO2は、低体温に伴い上昇したが、完全循環停止時はあまり変化せず、体外循環再開により大きく低下した。S-100b蛋白は完全循環停止時には上昇せず、復温60分後にピークが見られた。NIRSによる脳内ミトコンドリア内チトクロームオキシダーゼ(cytox.)は、低体温とともに酸化され、完全循環停止時には緩徐に還元化された。体外循環再開により一時的に酸化状態は改善したが、復温時に再び還元化を示した。今回の結果上り、脳血流の完全停止時には、SjvO2やS-100b蛋白が脳障害あるいは脳酸素化状態の変化を反映しない可能性が示唆された。一方、cyt.ox.では血流が完全に停止した状態でも脳内酸素化状態をリアルタイムに検出できることが判明した。<今後の展開>次年度は、このモデルを用いて急速復温や空気塞栓による脳障害発生がcyt.ox.のパターンから評価できるのかを検討すると同時に、cyt.ox.の還元パターンを指標にcyt.ox.の還元状態を正常化するような脳管理を行った場合、脳予後が変化するのかを検討したい。
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