近年、近赤外線分光法(NIRS)で検出されるチトクロームオキシダーゼ(cyt. ox.)の信号はヘモグロビン(Hb)の信号からくるアーチファクトであるとの報告がなされた。我々はこれまでNIRSを用いて脳内cyt. ox.の還元状態を測定する新たなアルゴリズムを開発してきた。そこで今回、我々がこれまで独自に開発してきたアルゴリズムをイヌ体外循環モデルに応用し、脳内cyt. ox.の信号がHbの吸収変化に依存するのかを血液希釈実験により検討した。さらに、我々のアルゴリズムの正当性を評価する目的で、cyt. ox.の酸化-還元状態と、各種パラメーターおよび脳障害の程度を比較検討した。<方法>イヌに体外循環を導入しシアン化ナトリウム投与後、血液希釈によりHt値を35%から5%まで変化させ、我々のアルゴリズムを用いてcyt. ox.の変化を解析した。さらに、体外循環を用いて超低体温下完全循環停止(25℃と15℃)を60分間行い、cyt. ox.の酸化-還元変化と、体外循環離脱後の脳神経障害の程度とを比較検討した。<結果・考察>シアンで電子伝達系をブロックした後に血液希釈を行うと、脳内Hbの濃度変化と血中Htとは比例関係がみられたが、脳内cyt. ox.と血中Htの間に全く相関はみられなかった。このことから、我々の開発したアルゴリズムではHt値が35%から5%の範囲内においては、cyt. ox.の信号とHbの吸収変化を完全に独立して検出できることが判明した。また、完全循環停止時の脳内酸素化状態と体外循環離脱後脳障害の間には有意な相関がみられた。以上の結果から、NIRSを用いたcyt. ox.の測定に関しては、装置の演算方法(解析アルゴリズム)が重要であり、我々の開発したcyt. ox.測定アルゴリズムは、Hb濃度や体温の大きく変化する状況下(体外循環施行時)でも十分に対応できることが示された。
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