マグネシウム(Mg)は多くの酵素活性や細胞内伝達系において重要な役割を担う生体内で4番目に多い陽イオンである。近年、この金属が術後痛を軽減し、麻薬の鎮痛効果を高めることが臨床的に報告され、鎮痛効果を示す機序として、in vitroでNMDA受容体活性を阻害する可能性が示唆されている。本研究の目的は、Mgの鎮痛効果とその機序を明らかにすることである。 本年度は、Mgを投与したラットにおいて、一次求心性侵害受容神経に対する化学的刺激を与え、脊髄後角の二次求心性神経の反応をc-fosの発現を指標として検討した。 雄性Wistar系ラット(BW200-300g)を、Mg投与群(Mg1群:30nM/kgおよびMg2群:300nM/kg、生食投与群(Ns群)の3群に分けた。ペントバルビタール麻酔下に、両足背を金属針で15〜20回軽く擦過した。左足背に10%ヒスタミン10μmlを含ませたゼラチンスポンジを乗せ、乾燥しないようにパラフィルムで15分間覆った。右足背には生理食塩水を含ませたゼラチンスポンジを置いた。刺激2時間後、左心室より経心臓性に4%パラホルムアルデヒド約250mlで灌流固定した。脊髄(L1-5)を取り出し、4%パラホルムアルデヒドにて後固定し、40μmの凍結薄切連続切片を作成した。切片を免疫組織化学染色し、腰髄後角のc-fos陽性細胞数を計測した。 c-fos陽性細胞は、ヒスタミン刺激と同側の脊髄後角側部に多く、I、IIそしてX層に主に観察された。ヒスタミン刺激側脊髄でのc-fos陽性細胞数は、Ns群207±18、Mg1群192±14、Mg2群66±9(個)で、Mg2群はNs群、Mg1群に比べ有意に少なかった。 以上の結果から、脊髄後角の二次求心性神経の反応抑制がMgによる鎮痛の機序の一つであることが示唆された。
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