免疫系と神経系の間の情報伝達機構に関して以下の知見がえられた。 1、昨年度はカラゲニンによる炎症性疼痛モデルを用いたが、さらに長期にわたる炎症モデルであるアジュヴァントモデルにおいて研究を行った。本モデルにおいてはアジュヴァント注射1日後より脳、脊髄内の血管内皮細胞にシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)免疫陽性細胞が多数観察された。COX-2が血管内皮細胞の核膜近辺に存在することが、多重免疫組織化学により確認できた。なお、正常状態では、大脳皮質、海馬など脳の一部にCOX-2免疫陽性神経細胞が認められるのみであり、脊髄では免疫陽性細胞は認められなかった。 2、脳及び脊髄におけるCOX-2免疫陽性血管内皮細胞を経時的に定量した。アジュヴァント注射1日目より出現し、免疫陽性細胞の数も免疫反応性も漸減したが24日目においても免疫陽性血管内皮細胞はわずかながら認められた。 3、脳脊髄液中のPGE_2、は、注射1日後より検出されはじめ、以後漸減した。 4、痛覚過敏は注射3時間後より観察され、10日目においてもプラトーの状態が持続していた。浮腫は二相性に両足に認められた。 以上より、アジュヴァント誘発性慢性炎症性痛覚過敏には中枢神経系血管内皮細胞のCOX-2が深く関与していることが示唆された。 さらに下流のPGE_2合成の最終段階酵素であるPGE_2 synthase(PGEs)の局在をカラゲニンモデルを用いて調べた。その結果 5、PGEsは正常状態では中枢神経系において観察されなかったが、炎症誘発後中枢神経血管内皮細胞に広く分布した。 6、多重免疫組織化学を用いて調べたところ、COX-2とPGEsは同一血管内皮細胞において共存していた。共存率は90%以上であった。 7、PGEs mRNAも中枢神経血管内皮細胞に分布するというpreliminaryな所見が得られた。さらに中枢神経血管内皮細胞におけるCOX-2合成のトリガーになると考えられるサイトカインの定量も行い、炎症誘発後局所血管内におけるIL-1beta、IL-6濃度の上昇をpreliminaryな所見として得た。上記6およびサイトカインをはじめとするmediatorについては最終年度である本年さらに探求し、中枢神経血管内皮細胞に注目した免疫系シグナルの神経系への情報伝達のメカニズムの解明を行う予定である。
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