研究概要 |
平成12年度、13年度の研究では、カラゲニン誘発性炎症モデルやアジュヴァントモデルなどの末梢性炎症時におこる痛覚過敏発症の一つの原因である中枢神経系の感受性の増加つまり中枢感作に関与するプロスタグランディンE_2 (PGE_2)の産生が、中枢神経血管内皮細胞でなされていることを、PGE_2産生の律速酵素の一つであるシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)に注目して、生化学的、分子生物学的、行動薬理学的、免疫組織化学的に証明した。 平成14年度は以下のような所見が得られた。 1.各種炎症性モデルにおいて、中枢神経血管内皮細胞にCOX-2とPGE_2合成の最終段階酵素であるPGE_2 synthase (PGES)が共存し、その共存率は90%を超えていた。またCOX-2mRNA, PGES mRNAもこれらの細胞に観察された。つまり、炎症情報は、各種炎症性サイトカインが血管内皮細胞上のサイトカイン受容体に結合することにより中枢神経系に伝達され、これらの細胞ではCOX-2,PGES依存性にPGE_2合成が行われ、中枢感作に関与する可能性が示唆された。 そこで、局所における炎症情報が中枢神経系に伝達されるメカニズムを中心に研究し、以下のことが、分かった。 1.炎症局所ではマクロファージ様細胞、単球様の細胞にCOX-2及びPGESが発現するが、これらの酵素が同一細胞に共存する率は非常に少ない。つまり、炎症局所では、PGE_2以外のプロスタグランディンが末梢感作に関与する可能性が示唆された。また、末梢におけるこれらの発現は炎症惹起1時間後から見られる、つまり炎症初期の痛覚過敏には末梢感作の関与する要因のほうが大きい。 2.炎症惹起後、循環血中のTNFα,IL-1β,IL-6などの各種炎症性サイトカインの有意な上昇は見られなかった。また、炎症局所にサイトカイン産生阻害剤を投与しても、痛覚過敏、中枢神経血管内皮細胞におけるCOX-2の発現に影響は見られなかった。炎症局所から中枢神経血管内皮細胞への情報伝達を担う物質の正確な同定には、さらなる検討が必要である。
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