研究概要 |
三種類の神経損傷について痛覚過敏と,脊髄神経細胞のアポトーシスの関連について調べた.ヘマトキシリンおよびssDNA(anti-single-strand DNA)染色を行った.1)腕神経叢切断モデル.痛覚過敏の指標として前肢の先端を自咬する頻度を観察した.1ヶ月にわたって観察し神経切断1ヶ月後に脊髄を取り出した.神経細胞のアポトーシスは頚髄のみならず腰髄において両側性にみられた.免疫抑制剤はアポトーシス発現を抑制しなかった.また自咬行動の頻度も抑制しなかった.2)坐骨神経絞扼モデル.術後約1ヶ月にわたる,熱痛覚過敏がみられた.1ヶ月後の脊髄標本では脊髄後角と中心管周囲に多数のssDNA染色陽性細胞がみられた.患側でやや強かったが両側性であった.陽性細胞数は腰髄>頚髄であった.3)脊髄神経結紮モデル.アロディニアと熱痛覚過敏が見られたにもかかわらずアポトーシスの程度は3種類の神経損傷の中で一番軽度であった.以上より,末梢神経の損傷による脊髄におけるアポトーシスは非特異的な反応として観察された.アポトーシス出現の部位特異性の低さは炎症性痛覚過敏における脊髄COX-2の発現と共通しており,損傷を受けた求心性繊維からのグルタミン酸の過剰放出が単純に神経毒性を限局的におよぼしているのではないと考えられる.一つの末梢神経の損傷といえども,神経系に広範囲な影響を及ぼしているものと考えられた.また,アポトーシスの程度と痛覚過敏の程度が相関を示していないという観察結果から,必ずしも抑制性のニューロンが選択的に障害されるのではないことを示していると考えられた.神経損傷によりアポトーシスをおこす神経細胞の種類を正確に把握するために現在他の染色法との組み合わせにより実験継続中である.免疫抑制薬がアポトーシスに影響を与えると予想したがほとんど影響を与えなかったため,神経保護作用のあるcycloheximide, ionomycin, propentofyllineなどについて調べ,最終年度で本研究テーマを完成させることができると考えている.
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